■ヨーロッパはラジエータが中心
まず,ヨーロッパの暖房であるが,スウェーデン,ドイツ,イタリアではラジエータが主要の暖房機である。ラジエータは,機器内のパイプに温水を通し,機器全体を暖めて放熱体としたものである。
これは,日本のエアコンとは異なり,温風の出ない低温ふく射式の暖房である。ちなみに,ラジエータは,一般にバスルームや廊下を含めた全室に設置されており,そのすべてがサーモスタットやタイマで,一斉かつ長時間運転されている。
■アメリカは温風式
暖房機の変遷としては,ラジエータがまず普及し,1950年代にべースボードヒータが広まり始めた。
ニューヨークには比較的古い住宅が多いため,昔ながらに使われてきたラジエータの割合が高いのである。
しかし,新築の住宅では,冷房を兼用できるダクト暖房が主役を占める。ダクト暖房は,天井裏または床下に取り付けた管(ダクト)に暖気を通し,吹出口から室内に送り込む,いわゆる温風式の暖房である。夏は同じダクトに冷風を通し冷房ができる。このシステムが増加しているのは,冷房需要の高まりで冷房機能を入居時から備えておきたいという家庭が増えたからである。また,壁や窓に穴をあけて取り付けるウィンドウ型に比べて,ダクト暖房を建築時に設置した方が建物の外観を損なわないというメリットも大きい。一方,気候の温暖なアトランタでは,夏の暑さをしのぐことが暖房よりも優先され,冷房が生活の必需品になっている。ニューヨークよりも都市そのものが比較的新しいことも手伝って,暖冷房兼用のダクト暖房が広く使われている。
■なぜ温風式のアメリカ人が満足しているのか
アトランタで主流であり,ニューヨークでも増加しているダクト暖房は,日本のエアコンやファンヒータと同じ温風式の暖房である。したがって,前述した仮説に立てば,生活者の満足度も日本並みに低いことが予想される。ところが,調査をしてみるとどちらの都市も70%もの人が「特に不満はない」と答えたのである。アメリカ人は温風式の暖房を不快なものと感じていないようである。なぜだろうか。
そこで,アメリカのダクト暖房を調べてみた。すると,温風の吹出し速度が,エアコンに比べてかなり小さいことがわかった。日本では,昔ながらの「暖身」の習慣が抜け切れず,今でも人の在室状況に応じて暖房機をまめにつけ消しする。そのため,室内温度が頻繁に上下する。だから,部屋が冷えたときには速く暖めたいので強い温風が価値をもつ。
それに対しアメリカでは,冬の間は長時間暖房して住居内を昼夜を問わずほほ一定の温度に保つ習慣が根付いている。そうなると暖房は,室外に漏れていく熱を補う程度の役割を果たせばよく,強い温風は必要ない。こうした実態を踏まえると,生活者が感じるダクト暖房の温熱環境は,エアコンよりもむしろラジエータに近い。つまり,満足度は温風式であることよりも「温風の強さ(風量)」との相関が強いようである。