<耐震偽造>イー社、告発重視せず 情報提供の社長証言
全国に波及した耐震データ偽造問題で、姉歯(あねは)秀次1級建築士(48)の構造計算書の偽造を見抜いて国指定確認検査機関「イーホームズ」(東京都新宿区)に情報提供した東京都渋谷区の構造設計事務所社長(44)が29、30の両日、毎日新聞の取材に答えた。社長は、情報提供後もイー社が「再検査したが問題はなかった」として偽造個所を特定できず、問題を重視していなかったことを証言した。社長が報道機関の取材に応じたのは、初めて。
この社長は昨年、「姉歯建築士の仕事が信用できない」とデザイン設計事務所に依頼され、姉歯物件の構造設計をやり直したことがある。「ヒューザー」(東京都千代田区)が建築主のマンション「グランドステージ川崎」(川崎市が使用禁止命令を出した「グランドステージ川崎大師」とは別)の構造設計も担当した。
この川崎のマンションで施工を担当した建設業者から今年10月初旬、着工中の「グランドステージ北千住」(同足立区)について、「構造設計がおかしい」と相談を受けたことが、イー社への情報提供のきっかけだった。
設計図を社長が取り寄せて見たところ、鉄骨が少なく柱やはりも一見して細かったため、同月14日ごろに建築確認していたイー社に「構造計算を見直したほうがいい」と電話で連絡した。
社長はその後、構造計算書も入手して点検。その結果、耐震性を測る項目の一つ「保有耐力」が抜け落ちていたり、耐震数値が計算プログラムの入力数値からはありえない数値になっていた。
ところが、同21日にイー社から「担当者が再度確認したが問題はなかった」と電話連絡があったため、社長はイー社に乗り込んで、構造計算書を基に具体的な偽造個所を指摘。ようやくイー社は問題の重大性に気付いたという。
イー社の藤田東吾社長は29日の衆院国土交通委員会で、情報提供を受けて調査を進め、偽造を確認したと説明していたが、同社の再確認でも偽造が見つからなかったことは明らかにしなかった。
イー社危機管理室は「事実関係を再調査中」と話している。
一方、昨年春、この社長が構造計算をやり直した姉歯物件でも、社長はやり直し前の建築確認をした「日本ERI」(同港区)に対し、偽造の疑いを告発していた。しかし、ERIも偽造は見抜けず、姉歯建築士を巡る疑惑が表面化することはなかった。【種市房子】
(毎日新聞) - 12月1日3時9分更新