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「(前略)肴よ、酒よといえども、先立つものは飯なりければ、炊かぬ家とてもなし。しかれば竈の煙ひまなく立ち上り、空をおおへり。溝どぶは、米の白いとぎ汁にて色をかえ、末は川に入り、川水これがために甘く、海に入れば潮も亦甘し。(中略)かの江戸前と称えるものは、東方生育の陽気を受けて生じ、五穀の滋味の甘きを食いて育つ。故に味 他国のものに勝れり(後略)」
要するに江戸中の米のとぎ汁が溝やドブを通じて川に入り、五穀の栄養分がすべて海に流れ込み、それを食って育つから江戸前の魚はうまいのだ、という趣旨である。
まだ顕微鏡もなく、食物連鎖の理論も確率していない時代であることを考えると、武井周作の視点は見事といってよいだろう。川から流れ込んだ養分が江戸前の魚をはぐくむのに大いに役立ち、それがために近隣の魚よりうまいという説明である。
この推察はほぼ正解といって間違いなかろう。日本に数ある入り江の中で、東京都内湾つまり江戸前の海ほど多くの河川が流れ込むところは他にはない。西は相模国との境である多摩川から始まり、東へ順に隅田川、荒川、中川と続き、江戸川で下総国との境となる。
上流部の山々に出来る腐葉土から作られた植物性プランクトンをたっぷり含んだ沢の水を集めて支流となり、それが本流へと流れ込み、やがて大河となってそれぞれの川が江戸前の海に流れ込む。すると」それを餌にして大量の動物性プランクトンが発生する。これが干潟に育つ貝類の餌となり、孵化したばかりの仔魚や稚魚を育む餌になる。
また、イワシやアジなどプランクトンを主食とする魚が岸辺に寄ってくる。するとそれを食いにスズキやサワラなどが沖から浅瀬まで回遊するようになる。そこで食物連鎖の頂点にたつ人間が一網打尽にして賞味する。
こうして見事な江戸前魚食文化に関するピラミッドが形成されてきたわけだ。
川の水と海水が混じる海域を汽水域という。この汽水域こそ豊富なプランクトンがわく場所だ。江戸前の海とは、随所に川が流れ込み広大な汽水域を形成してきた所で、現在もその状態は変わりない。