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スレ主ちゃん [更新日時] 2014-10-18 14:27:53

0歳

旧華族の血筋を受け継ぐ大財閥「幸(さいわい)家」に一人の男の子が生まれた。
その生まれながらに美しい顔立ちは、周囲の人々を太陽のように明るく照らしだし、一寸の陰りさえも見えない。
莫大な富と名誉を欲しいままにすることを 生まれながらにして約束され、”幸・鉄平(さいわい・てっぺい)”と名づけられたこの男の子は、これからどんな人生を歩んでいくのだろうか。

[スレ作成日時]2007-02-18 15:32:00

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創作しましょ、百歳物語3

  1. 41 匿名さん

    41歳
    「空が見たい」
    助手席のサチが言った。
    「空?」
    鉄平は運転に注意しながら視線を上げる。
    天気は晴れ、真っ青な空が在る。
    「見えるよ」
    「ううん、もっと近くで。もっと大きく」
    近くで、ねぇ……。
    鉄平はサチを横目を見ながら、右ウィンカーを出した。

    高層ビルの最上階。
    目の前に拡がる景色、吸い込まれそうな空が半分を占める。
    じっと空を眺めていたサチは振り返って言う。
    「まだ、遠い。もっと大きく、もっと近く」
    わがままな口調。
    溜息付いた瞬間に見た、涙のいっぱい溜まった目。
    今日はなんか変だ。
    「次、行こっか」

    観光用タワーの展望台。この辺じゃ一番高い。
    大きく拡がるパノラマの景色、眺め続けるサチ。
    辺りの雑音も鉄平の言葉も、聞こえてはいないだろう。
    こんな彼女は初めてだった。
    明るくて、うるさいくらいに騒ぐ彼女が、今日はこんなに無口で勝手。
    何があった? ……鉄平には分からない。
    何を探して、何を求めて。
    鉄平は、ふと、自分は彼女の事を何も知らなかったのでは?と思った。
    「もっと近づきたいの……お願い、連れてって」
    哀願する瞳が鉄平を向いた。

    車は山道を進む。
    彼女は空を眺め、深刻に何かを求め続けている。
    えっと、一番近い頂上は……。
    日はまだ高い。
    が、暮れる前に着けるかな。
    「あっ!」
    ……ん?
    「止めて、降ろして」
    急ブレーキまじりで止めた車から、彼女は飛び出した。
    鉄平は慌ててエンジンを切り、走って行く彼女を追う。
    そこは、草原だった。
    見渡す限り全て、全部。前も後ろも、全て緑の草。
    風は好きに吹き、光はまっすぐに射す。
    頭上は遮るモノなどない、そのままの空、まあるい空。
    「こんなに近い……」
    天に向かい、求める様に差し出される両手。
    頭上一面、全て青色、みんな空。
    眩しいほど笑顔を見せる彼女が、ゆっくり口を開く。
    軽やかにすべり出るのは歌声。
    澄んでいて、明るくて、華やかで、強い。
    空へ向けられた彼女の唄が、踊りながら登って行く。
    天高く突き抜ける様に登って行く。
    「お母さん……」
    終曲の後に漏れた、小さな呟き。
    「お母さん?」
    「うん。3日前に、死んだって」
    驚く鉄平を眺める、彼女の顔、満面の笑み。
    「私、お母さんの顔、知らないの。小さい頃に離婚して……父は、ずっと、会わせてくれなかったし、会おうともしなかった」
    彼女がまた空を仰ぐ。
    「でも、この唄だけは覚えてた。お母さんが唯一私に残してくれた唄……葬式にだって出なかった私の、お空に行ったお母さんへの贈り物」
    いつもの、はじゃぐ口調に戻っていた。
    鉄平は彼女の肩をそっと抱き寄せる。

    「ねぇ、君の思い出。聞かせてよ」
    鉄平は、自分は彼女の事を何も知らない、と改めて思った。

  2. 42 啄木

    42歳

    まだ暑さの残る初秋の夜。
    蓬髪の若き破戒僧が一人房総半島安房の国の山中に在るこの破れ寺を今宵の宿に定めた。
    焼け落ちた山門をくぐり、本堂の縁側に腰かけると、矢傷の残る古びた柱のひとつに背をもたせて、荒れ果てた庭に向つて若木の枝のような四肢を投げ出した。
    疲れ切つた僧はすぐにうとうと とまどろみかけたが、叢を分け入る小さな足音に瞼を上げた。
    うす闇にかすんで、藪の小枝のごとき手足を襤褸に包んだ背の低い爺が、童の頭ほどある大きな徳利を下げてゐる。
    獺が後足立つたような風体である。
    その縮れた白い無精鬚の口元が嗤つた形のまゝ「佳い月だ」と謂つた。
    日没の朱が溶けた藍闇の西空に三日の細月が架かり、辺りの雲が硫黄色に染められてゐる。
    なるほど寥々たる月だが、あやかしの類の裂けた口を思はせ些か気味が悪い。
    そう訝しんでゐるのが伝わつたのであろうか、爺は口の中でくくくと嗤い小さな黒目をくるりと回した。
    縁側に上がりこんだ爺は懐から欠けた白磁の盃を出して徳利からなみゝゝと注ぎ込んだ。
    そのまゝ呑むかと思えば手招きして盃を指すので、鬚に頬を寄せて獣くさい息を我慢し乍ら覗き込むと絃のごとき月が見事に映つてゐる。
    爺が盃を口に運ぶと、ちゞれ鬚の口の両端がにゅうと釣りあがり、酒の面に映る月をするりと呑んだ。
    幾度も乾した爺は生暖かい息を吐き、盃を僧に突き出した。
    酌まれた酒を僧は喉の奥へ一息に流し込む。
    安酒とは違う。
    薫り高き鮮やかな甘露であった。
    吹き始めた風が火照つた頬を撫でる。
    細い月明かりに芒が揺れて淡く光つていた。

    遣れ寺にさかづき居りし秋の夜

    嗤つた唇のまゝ爺が朗々と詠んだ。
    僧はしばし黙つて盃を玩んでいたが、凛とした声で、

    見あぐるやまことの月のかかりしにさかづき映し影を詠うや

    これを聞くや爺は薄い眉をひょいと上げ無精鬚を掻いていたが、

    見あぐるにとどかぬ月を如何せんさかづき映し影を詠うも

    「虚も実もありはせぬ。全ては己が眼に映りし空也」
    爺は盃をふうと吹いた。
    ざわりという音に振り返ると芒が大きく揺れている。
    否、どうしたことか、芒の上に架かる絃月もまた中天にゆらゝゝと波立つていた。
    風が凪いで月はまた空に凍りつき、それを芒が受け止めたように撓つた。
    気づくと僧はひとり破れ寺に遺されてゐた。
    爺の座つてゐた辺りに古びた木切れがあり、一つの句が書きつけられてあつた。

    さかづきのうつし世にありすゝき垂る

    その僧こそは、だれあろう・・・旧友の鉄平に頼まれ、鉄鉱脈を探しに南米から戻ってきた坂本奔馬その人であった。

  3. 43 匿名さん

    43歳

    房総の浜辺はカラフルな水着をつけた男女で溢れかえっていた。
    響き渡る歓声、 戯れる恋人達。
    しかし、その平和な光景を睨みつける不穏な視線があった。

    黒いマントをなびかせ、黒い仮面をつけた男がブーツで砂を踏みつけて呟く。
    「申し訳程度の布切れで身を隠すぐらいなら、いっそ剥ぎ取ってやろうではないか」
    場違いな姿の男は傍らの部下と思しき男にあごで合図した。
    男達がなにやら掃除機のようなものを取り出す。
    そこには、グラマーな肢体を紐ビキニで覆った女性達がビーチボールに興じている。
    「ビキニバキューマー、スイッチオン」
    掃除機もどきが唸りを上げる。
    と、同時に彼女達の紐ビキニが一瞬のうちに引き剥がされた。
    「きゃああっ」
    魔王の指令でバキューマーが全方位に向けられる。
    バキューマーに吸い込まれていくビキニ達。
    「わしは、恐怖のエロ魔王。この世をエロで支配するためやって来た。」
    男達に、エロ魔王は手に持った竹の杖を向けた。
    「本能刺激ビームっ」
    ビームに包まれた男達はたちまち濁った目に変わり、目当ての女を追いかけ始めた。
    逃げ惑う女達を見て、エロ魔王は叫んだ。
    「バキューマー、最大出力っ」

    「お待ちっ」 
    声とともにバキューマーを抱えた男がもんどりうってひっくり返った。
    「な、何者っ」
    狼狽して周囲を見回す男の頭を白いヒールが蹴り飛ばした。
    「ピチピチ戦隊1号! キラーホワイト参上」
    透き通るほど白い四肢を白いワンピースから惜しげもなくむき出しにしたポニーテールの少女が砂地に着地した。
    「ピチピチ戦隊2号! バトルルージュ推参」
    きらきらと光るピンクの口紅も鮮やかにショートカットの少女がアーミー柄のミニスカートを翻した。
    「ピチピチ戦隊3号! ミステリアスシャドー見参」
    切れ長のクールな瞳をひらめかせ、ジーンズ姿のスレンダーな長い髪の少女が現れた。薄いシャツから透ける黒い下着が刺激的だ。
    ホワイトを中心にポーズを決めると、三人は叫んだ。
    「私達は女性の敵、品性下劣なエロリストに立ち向かう美少女戦隊よ」
    「こ、こしゃくな。やってしまえ」
    魔王の指令で部下達が三人に襲い掛かる。
    「変身」
    声とともにホワイトがワンピースを脱ぎ捨てると、白いビキニ姿に変身した。
    反動でビキニから白い胸がはみ出て揺れる。
    どよめくエロ魔王一団。
    「馬鹿者、動揺するな」
    そう言うエロ魔王も視線が胸元から離れない。
    「この世に仇なすエロリストども、ホワイトニング攻撃、いくわよっ!」
    彼女が跳躍すると、肌、そして光沢のある髪までもが白く輝き始めた。
    光が浜辺を満たし、ホワイトの姿が消える。
    「ぐえっ、ど、どこだ。ぶほっ」
    白一色の中、部下が次々に砂地に突っ伏した。
    「ま、魔王様っ」

    突如、魔王は目を見開いた。
    「見切ったぞ、真夏の太陽に容赦無し。ホワイトニング敗れたりっ」
    言葉が終わるとともに杖が一閃する。
    「きゃああっ」
    ホワイトの悲痛な叫び声が響いた。
    ふっつりと光の洪水が消え、砂地に倒れこむ少女の姿。
    「ど、どうして……。この日焼け止めは最強のはず」
    「み、耳が消えてないわ」
    ルージュの叫びに慌てて耳に手をやるホワイト。
    「ふふふ、愚か者め。日焼け止めを耳に塗り忘れたな。日差しで耳が焼け保護色効果が無くなったじゃ!耳ありホワイトというわけか」

    「今度は、わしの番だ」
    杖からヘドロ色したどす黒い気体がうねって広がっていく。
    「ファンタジーバンブーの術っ。わしの妄想でお前らを虜にしてやる」
    「ああっ、いやんっ」
    たまらずルージュが涙を浮かべて膝をついた。
    「そこは、だ、だめっ」
    胸を抱え蹲るシャドー。
    「ファ、ファンタジーバンブー……妄想竹。あっは〜んっ」
    砂地に転がって喘ぐホワイト。

    「竹…空洞。」
    苦しい息の下、ホワイトは邪念が噴出する竹の杖の先端の穴を見た。
    「あの穴を塞ぐわよっ、ストロングパック攻撃っ」
    ホワイト、ルージュ、シャドウが声をそろえてパッククリームを投げた。
    次々とパックが竹の穴を塞いでいく。
    ぼぼぼぼ、杖から邪念の噴出が止まった。
    行き場の無い妄想が充満し、魔王の持つ竹が不自然に膨らむ。
    次の瞬間、バッカーン。妄想竹は激しく爆発した。
    どっ、と巻き上がる砂煙。
    視界が開けた時、砂の上にはエロ魔王が倒れていた。
    「お、お前らの反応に興奮して、暴発する妄想を止める事が出来なかった……」
    絶え絶えの息で魔王が少女達を睨み付ける。
    「年にそぐわぬ体。男の本能を刺すフェロモン。お前らの存在自体が罪だ。エロ無きところに潤い無し。」
    「限度ってもんがあるのよ、バカっ」
    「わしを倒しても第二、第三のエロ魔王が出現する……お前らの戦いは永遠に終わらない。うおっ」
    ホワイトの蹴りが炸裂し 黒い仮面に亀裂が走った。
    なんとそこに、あらわれた顔は、あの坂本奔馬であった。
    やがて、彼は、ぷしゅーという音とともにしぼんで消えていった。

    「行き場の無い夏の妄念が魔王を生んだのね」
    シャドーが呟いた。
    「美ってどうしてもエロを誘発してしまう。美しすぎるのは罪、なのね」
    シャドーが長い髪をなびかせた。
    「そうかもしれない。だけど無差別なエロは許さない」
    ルージュが唇をかみ締める。
    夕暮れの房総の浜辺で少女達は、新たな戦いの予感に身を震わせていた。

  4. 44 匿名さん

    44歳

    鉄平の旧友・勝海虫は目を覚ました。
    カーテンの隙間から外の明かりが漏れている。
    枕元の時計を見てがっかりした。
    昼過ぎまで寝ていようと思ったのに、もう眠れそうになかった。
    脱いだ服が床じゅうに散らばっている。
    そういえばしばらく洗濯していない。
    勝はシャツや下着や靴下を拾い集めて片っ端から洗濯機へ放り込んだ。
    勝は手前の操作パネルの「念入り」コースに指を止め、ちょっとためらった後「ふつう」コースにした。
    ドラムが回転を始める。
    しゃっくりするような動きに合わせて、白いボディがごん、ごん、と揺れた。
    「ふつう」コースを指示された洗濯機は一回の洗いと二回のすすぎをして、最後に五分ほど脱水する。
    勝は、ポケットから煙草を出して火をつけた。
    思い切り吸い込んで、息を止める。
    別にたいして美味くもない。
    開けっ放しの風呂場の鏡に勝の顔が映っている。

    二週間ぶりの休日だった。
    何が忙しいというのでもない。
    いつも通りだ。
    自分が勤める工業高校の学生たちと放課後ラグビーの練習をする。
    ただ、それだけの毎日。
    家に帰ると服を脱いで湿っぽい布団に眠るだけ。
    この歳まで独身で通しているうちに、日常行為は何だか面倒くさい特別な儀式のようなものに変化してしまった。
    洗濯は、祖父の七回忌とかそういう感じだ。
    やがた、揉まれる洗濯物は、海外の友人たちに初めて見せた遺影のようにリアリティを失う。
    それが選びようのない勝の現実だった。

    工程を終えた合図の小さな電子音が鳴った。
    ねじれて絡まる洗濯物をひとまとめにして、床にどさりと落とす。
    たくさんのシャツと下着と靴下を、窓のカーテンレールに下げたハンガーにかける。
    乾けばそこがそのまま箪笥になる。
    淡い色の太陽がはす向かいの高校の屋上をかすめて、慎ましく昼の訪れを告げていた。
    洗濯物は、田舎道でバスを待つ老人の日傘のように頼りなく北風に揺れて、時々太陽を遮る。
    勝はただじっとそれを見ていた。
    光を感じるのはとても久しぶりだった。
    そうしているうちに、勝はうとうとと眠ってしまった。

    窓を揺らす風の音で目が覚めると、空の色が少し薄くなっていた。
    木枯らしに洗濯物が揺れている。
    勝は窓から下を覗き込んだ。
    南側のフェンスに洗濯物がひっかかって、風に弄ばれていた。
    勝はサンダル履きでアパートの階段を降りた。
    眠る間に吹き始めた風は辺りをすっかり冷たくしていた。
    洗濯物はどうにかフェンスにしがみついていた。
    勝は拾い上げて軽く埃を払った。
    足元で動物の唸り声がした。
    振り返ると背の低い女に連れられた小さな犬がいた。
    「洗濯ですか?」
    女がきれいなアルトでそう訊いた。
    彼女の視線は勝の手元を見ていた。
    「ええ。まあ」勝は適当な相槌を打った。
    彼女の犬が、同じく勝の手のあたりを睨んで足元で小さく唸っている。
    平面的でいかつい顔をした犬だ。
    「うちの人は、洗濯なんて、何もしないわ」
    「俺だって結婚したらきっと洗わない」
    「そんなものかしら」
    「わからないけど。洗わないでもやっていけそうな気がする」
    「そうかしら」
    「そうかな」
    「私は毎日洗濯してるわ。いろいろとね。他にあまりやることもないし」
    「そう?」
    「あなたもダンナの転勤にくっついて見知らぬ土地に行けばわかるわ」
    「ダンナを貰う予定はないね」
    「そうね」
    彼女の犬がまた唸る。
    「ええと、アナログ盤のレコードがあるでしょ。一枚だけ残ってた一枚を繰り返し聴いてる、みたいな感じかしらね」
    平面的でいかつい顔をした犬の散歩と、すりきれたアナログ盤。
    そして洗濯する休日。
    風は休みなく吹いて、彼女と勝の間にある幾つかのものを冷たく乾かして通り過ぎていく。
    「ブラームス」
    「え?」
    「犬の名前」
    「ブラームス?」
    「私ピアノを弾いていたのよ。結婚するまではね」
    そう言ってブラームスを連れた彼女は去ってゆく。
    ブラームス。
    勝は繰り返した。
    冬の空は朱が染みるより早く紫の薄絹を下ろし始める。
    ブラームスという言葉は、しばらく頭の中であちこちにぶつかって反響していたが、やがて毎朝の出勤で通りかかる赤い屋根の家の庭先に佇む女性の記憶に辿り着き、そこで落ち着いた。
    響きのかけらがひとつ体の中心近くまで届いて、そこに残っていた午後の光の匂いがふわりと立ち昇り、小さく鼻をくすぐった。

    勝海虫が、消息を絶った旧友・坂本奔馬を探しに 房総へ旅立ったのは、そんな休日の夕方だった。

  5. 45 匿名さん

    45歳

    「お嬢ちゃん、ええ会話しませんかぁ」
    「英会話?」
    パッチリした瞳の美少女が立ち止まる。
    男は何食わぬ顔でミニスカートの中にカメラを入れた。
    「かかったわねっ」
    少女が空中に飛び上がった。
    「変態男、キラーホワイトがお相手よっ」
    電光石火の早業で白い足が弧を描く。
    男は潰れたヒキガエルの如く、路上に崩れ落ちた。
    「連続盗撮犯の噂を聞いて罠を張ってたのよ」
    ホワイトは得意げに鼻をならした。
    「小娘っ」
    不意に背後から別の男が襲いかかった。
    「あっ」
    羽交い絞めにされ、白いリボンのポニーテールが大きく揺れる。
    「ピチピチ戦隊か。一人で来るとはいい度胸だ」
    男が立ち上がり、ホワイトの胸に手を伸ばした。
    その瞬間。
    「お待ち、この蛆虫」
    黄金の鞭が男の首に巻きついた。
    鞭の先には、グラマーな肢体を黄色のスーツに包んだ長い髪の女。
    「行くわよ、ホワイトっ」
    二人の細い足が舞い、蹴りが男達の顔面にめり込んだ。
    「私はピチピチ戦隊の新隊員、ビクトリー・ベース」
    男達はせっかくの自己紹介にも気づかず、昏倒していた。

    「大丈夫?」
    ルージュとシャドーが駆けつける。
    「ええ、彼女のおかげで」
    「頼りになるぅ」
    褒められて、頬を染めるベース。
    「でも、これはいただけないわ」
    ルージュが、ベースの胸の不細工な青いペンダントを指差した。
    「……これは」
    ベースが口ごもった、その時。

    「探したぞ、ピチピチ戦隊」
    大声とともに、電飾の付いた極彩色の裃に身を包み、ちょんまげに薔薇をあしらった男が現れた。
    その両脇には薔薇の文様の着流しを着た男が二人。
    「また、ヘンなのが、出てきたわ」
    シャドーが溜息をつく。
    「エロ魔王をよくも葬ってくれたな。今度はこのエロ将軍が相手だ」

    余裕の笑みを浮かべたホワイトがミニスカートのすそを捲り上げた。
    「ピチピチフラッシュ」
    白い太ももから出た悩殺光線が辺りを包む。
    「男なら再起不能ね」
    しかし。
    「二人とも見て、やつら平気」
    愕然とするホワイト。
    「ふふふ、男がすべて女を好きだと思ったら大間違い。わしのエロは同性のみに向けられるのだ」
    ちょんまげを震わせて男が笑った。
    「ええい、控えおろう。このやおいの紋が目に入らんか?このお方をどなたと心得る」
    供の男が叫んで、印籠をかざした。
    ショッキングピンクの印籠の表面には二つの男性マークがウロボロスの蛇の如く円を描きお互いの丸を矢印が刺し貫いている。
    ベースが呟く。
    「矢追いの紋に、同性愛主義。お前はエロ将軍……み、meと肛門!」
    「このわしを知っているとは、素人じゃ無いな」
    エロ将軍が、ジロリとベースを睨んだ。
    「まあいい、全員地獄に堕ちろ」
    将軍はにやりと笑って全身の電飾を不気味なリズムで光らせた。
    「悶々ビームを食らえ」
    薔薇色の光線が印籠から発射され、四人を直撃した。
    「ああんっ」
    少女達は、苦悶の表情を浮かべて路上に蹲り、悶えた。
    だが、妖しい光の中すっくと立つ一つの影があった。
    「な、なぜだ」
    「無駄よエロ将軍、私には効かない」
    冷たい声が響き、鞭が一閃した。
    ピンクの印籠が砕け散る。
    精神攻撃から逃れた少女達が立ち上がる。
    しかし、今度はベースが身体を震わせ始めた。
    「どうしたのっ」
    胸のペンダントが赤く点滅している。
    ベースの輪郭がずれ始め、次第に筋肉質の男の姿が浮かぶ。
    「お前は、我が薔薇一族から出奔した黄願丸」
    エロ将軍が叫ぶ。
    ペンダントが赤に変わり、ベースの姿がガテン系の男に変わった。
    「ベースっ」
    悲鳴を上げるピチピチ戦隊。
    「騙してごめん。ホルモン剤入りのペンダントが青い間だけ、女になれるの」
    口髭がわなわなと震える。
    「ふふ、姿を変えてもお前は男。心の奥にはエロの噴煙が立ち昇っているはずだ。ピチピチ戦隊でやっていけるはずが無い、我が軍門に下れ」
    「愛に形は関係ないわ。良いエロは無敵なの。あなたのエロは、滅ぼすべき悪いエロ」
    ベースはエロ将軍を睨みつけた。
    「秘技、ミー、とオッ」
    掛け声とともにベースが飛び上がり、両手を突き出した。
    「パイッ」
    手から放たれた細い針がエロ将軍らの胸に二つずつ突き刺さる。
    針は一瞬、胸に突き立ち、すぐに地上に落ちた。
    そのとたん、彼らの胸は服を突き破って膨れ上がった。
    その頂点には虫に刺されたような赤いイボ。
    「かっ、かゆい」
    エロ将軍たちは、胸を掻き毟り、悶え苦しむ。
    「蚊の毒液を最新バイオテクノロジーで強化したパイ毒よ。地獄の痒みを味わいなさい」
    エロ将軍らは胸が気球のように膨張し、空中に舞い上がっていく。
    「甘いな小娘。バイオテクノロジーと言うなら、パイをテクノロジーぐらいに捻らねば……」
    ぷシューという音とともにエロ将軍は、ついに正体を現した。
    それは、あの勝海虫であった。
    「エロは夢。エロは希望。われらのエロに敗北なし」
    彼は、苦痛にのたうちながら叫ぶと、部下とともに虚空に消え去って行った。
    「この後に及んでダメだしとは、敵ながら天晴れ」
    美少女戦隊は、唇をかんだ。
    彼女たちの戦いは、まだまだ続くのだ。

  6. 46 匿名さん

    46歳

    いつものバス停に降りて腕時計をみると、まだ4時半だった。
    今回の裁判は、結果が悪すぎた、いつになく疲れた。
    事務所に寄って報告書を書く気力もなく吉田松竹梅は、裁判所からそのまま自宅へ直帰することにした。
    見慣れた並木道に沿って、夕暮れ前の木漏れ日の中を歩いていると、剥き出しになった神経も少しずつ癒されていくような気がする。
    今から家に帰れば、夕食まで子供とキャッチボールをする時間ができる。
    こんな日は、まず子供の顔が見たい。
    弁護士の日々は、あまりにも激務だ。
    心の安らぐ場所は、マンションの小さな一角で彼を待っている家庭だけだ。
    家路に向かう歩調も早くなり、ふと回りも見えなくなっていたのだろう。
    気がついたときには、慌しい人声とサイレンの喧騒の中にいた。
    立ち止まって方向を確認した。
    一台の救急車がけたたましい勢いで走り去っていく。
    人々がたむろしているところまで駆け足で近づいた。
    見慣れた顔の一人がいる。
    朝の通勤時に、よく挨拶を交わすことのある年配の奥さんだった。
    「なにがあったんですか」
    「ご近所の芳雄くん、さっきそこでダンプに跳ねられたんですよ。あの様子じゃ、もうだめでしょうね。まだ小学生なのにねえ」
    「ここの四つ角、多いのよ。お子さんにも気をつけるようにいっておいたほうがいいわ」
    芳雄くんのことはよく知っている。
    息子のタケシと仲のいい友達で、学校から帰るといつもふたりで遊びに出ていた。
    心を休めるはずの帰宅が、さらに陰鬱なものになった。
    タケシにこのことをなんといえばいいのだろう。

    黙ったまま玄関で靴を脱いでいると、台所から妻の「おかえりなさい」という声。
    いつも通りの日常である。
    今日のことは黙っておこう。
    ずるい方法かもしれないが、知らなかった事にすればいい。
    放っておいても、明日になれば近所の噂は妻の耳に入ることだろう。
    今はただ、タケシとキャッチボールがしたい。

    堅苦しいスーツを脱ぎ捨てて、居ても立ってもいられない気持ちで、子供部屋を覗いた。
    タケシがいない。
    「あれ、タケシはどこだ?」
    「今、外へ遊びに出たわよ。晩御飯まで遊んで来るんですって」
    「ひとりでか?」
    「芳雄くんが、あそぼって、誘いに来たのよ」
    それはいつだ、と尋ねた声は、叫び声だった。
    妻が眼を丸くして、ついさっきよ、と振り返った。
    芳雄くんは交通事故で死んでいるのだ。
    妻はわけもわからず、ただ怯えて言葉もない。
    気づくと、無我夢中で、外へ飛び出していた。
    タケシを救わなければならない。
    ドアから一歩外へ出たとき、非現実の世界に足を踏み出してしまったのだ。
    もはや後戻りはできなかった。

    どこどう走ったのかわからない。
    マンションの端にちぎって捨てられたような小さな公園がある。
    気がつくと、まるで呼び寄せられるように、その前に立っていた。
    子供たちのはしゃぐ声が聞こえる。
    あたりはすでに薄暗かったが、淡い光を集めたような空間の中で、ふたりの子供が追いかけっこをして遊んでいた。
    一人はタケシであり、もう一人は芳雄くんだった。
    だが、夕日を受けて芳雄くんの足元から伸びているはずの影がなかった。
    「あ、おとうさん」
    その時、私を見つけたタケシが、こちらに向かって走ってきた。
    芳雄くんがそのタケシを追っている。
    その刹那、初めて背筋も凍るような恐怖心が湧き上がってきた。
    死んでいるんだぞ、君はもう。
    芳雄くんの顔が、たちまち潰れたように歪んだ。
    口の両端が耳元まで裂け、真っ赤な隙間から覗いた歯は、五寸釘を何本も並べたように鋭かった。
    どこまでも遊んでいるつもりなんだろ、タケシは無邪気に私の背中に回って抱きつこうとした。
    私は後ろ手でそれを追い払った。
    「すぐに家へ帰るんだ、タケシ。母さんが待ってるぞ。走れ」
    その間も異形の者は、獲物を狙う禽獣のように背中を丸めて身構えていた。
    「おじさん、あそぼ…」
    「ああ」
    と、私は答えていた。
    どうやら、この異形の関心は私に移ったようだ。

    次の瞬間、タケシを残して私は弾けるように駆け出した。
    異形は、待ってよ、と叫んだ。
    日は完全に没していて、辺りの人影は少なかった。
    すれ違う人々は、一人として気づくものはいない。
    助けてくれ、という呼びかけはどこまでもむなしかった。
    人々は怪訝な顔を向けて、身をかわすだけなのである。
    おそらく、こいつは、他の誰にも見えないのだ。
    私は、並木通りを駆け抜け、バス停を越え、さらに国道に面した往来に向かって、逃げ続けた。

    吉田松竹梅が、消息を絶ったという連絡が鉄平に届いたのは、その翌日のことだった。

  7. 47 匿名さん

    47歳

    母を背負って海岸までの細い坂を下る。
    彼女は何も言わずにただ黙って西郷猛盛に背負われていた。
    彼は前を向いているので、母がどんな表情で背負われているのかわからない。
    海岸に出ると、満月が煌々と砂浜を照らしていた。
    ハマユウの花が、純白の花弁を夜風に揺らして甘い香りを漂わせている。
    すぐ後ろを歩いていた中年の女性が、そそくさと波打ち際まで進み、背負っていた老婆を乱暴に降ろし、不安そうに遠くを見つめる老婆の背中を、海に向けて黙って押した。
    見回すと、浜辺には思ったよりもたくさんの人がいた。
    若い女性は、赤ん坊を海に向かって放り投げている。
    投げられた赤ん坊は小さな弧を描いて、暗い水の中に消えた。
    赤ん坊が着ていた白いベビー服が、残像となって西郷の瞼の裏に焼き付いた。
    猫背の青年は、海に入って行く初老の男の姿を、少し悲しそうな表情で見送っている。
    男は振り返りもせず進み、老いてしぼんだ小さな体は少しずつ海に飲み込まれる。

    静かだった。
    取り乱したり泣いたりしている人は誰もいない。
    母親らしき女性に手を引かれている小さな子供でさえ、何も映らないガラス玉のような瞳で月の光に輝く水面を見つめるだけだ。
    波打ち際では夜光虫が暗い水の中で淡い光を放っている。
    たとえ海の中が冷たく音も無く心細い世界だったとしても、この夜光虫の美しい光がどんなにか水底に沈んで行く人々の心をなぐさめてくれるのではないか、と西郷は思う。

    彼はこの海に、母親を捨てに来た。
    ふうっと深いため息をひとつつくと、背負っている母を浜辺に降ろした。
    いつの間にか浜辺にはたくさんのウミガメ達が海から這い上がり、産卵の真っ最中だった。
    卵を産んでいるウミガメの前にそっと座って、その様子を静かに見守った。
    ウミガメは泣いていた。
    その小さな瞳からは大粒の涙がポロポロと流れ落ちて、砂の上に小さな黒いしみを作っていた。
    どうして泣いているんだろう。
    卵を産むのが、そんなにも痛くて苦しいんだろうか。
    それとも、新しい命を生み出す感動の涙なんだろうか。
    母が、同じように座り込んで、ウミガメの産卵を見つめている。
    カメのしっぽの下のあたりから、ピンポン玉みたいな真っ白い卵がぽとりぽとりと砂の穴の中に落とされる。
    このうちの何個の卵が孵化し、何匹の赤ちゃんカメが無事に海までたどり着けるのだろう。
    母は卵を見つめたまま、身じろぎもしない。

    ウミガメは卵を産み終えると、前足を使って丁寧に砂をかけて、またゆっくりと海へ戻って行った。
    彼は卵を間違えて踏み付けてしまわないように、近くにあった棒切れを拾って卵が埋まっているあたりに円を描いた。
    彼は立ち上がると、お尻についた砂を手でパンパンと払った。
    母もつられて立ち上がる。
    彼は母についた砂もはたいてあげた。
    これが息子として、母にしてあげる最後の仕事なんだと思い、砂が落ちてからもしつこいくらいに母の体をパンパンと叩き続けた。
    海面で魚が跳ねた。
    跳ねた魚の青白い腹と水飛沫が、月の光を浴びて輝くのを見た。
    それを合図に、彼は母の手を引いて波打ち際までゆっくりと進む。
    心の中は、この海のように凪いでいる。
    潮の香りが一段と強くなって、体の隅々までまとわりついて来るような気がした。
    母のシルエットが、月の光に照らされて広大な海を背景にクッキリと浮かび上がる。
    母はよろめいたけれど、一歩一歩、暗い海へと入って行った。
    少しずつ、母の体は海とシンクロし、やがて頭の先が見えなくなって母は完全に姿を消した。
    さよなら、お母さん。
    しばらくの間、ぼんやりと海面を眺めた後、西郷は何かに追い立てられるようにきびすを返した。
    柔らかい砂の上を足首まで埋もれながら小走りに進む。
    ウミガメの姿は、もうどこにも無い。
    砂浜には誰もいない。
    暗闇が、その色をさらに増して私の背中にのしかかって来る。
    振り向いてはいけない。 
    彼は少し前に母をおぶって歩いた細い坂道を、たしかめるようにひとりで登る。
    寄せては返す波の音が心臓の鼓動と重なって、彼の中で規則正しいリズムを刻む。
    捨てられた人々の体は魚や夜光虫の餌となって、また夜の海を神秘的に輝かせる。
    いつか、そう遠くはない未来に、自分も息子に背負われてこの海に来る。
    その時は、私は喜んで暗い海の藻屑になろう。
    誰を恨む事なく、静かに冷たい海底にこの身を沈めよう。

    風は止み海は凪いでいる。
    水面で、またキラリと魚が跳ねた。
    静かな静かな、房総の海だった。

  8. 48 匿名さん

    48歳

    男が二人、吉田松竹梅と西郷猛盛は、線路端の道を歩いていた。
    「饅頭は怖いね」
    「やだね、怖いものね」
    月は天空遥かに上り、この二人をじいっと見ています。
    「まるいのが良くないね」
    「ああ、ぽってりしてるのがおっかない」
    久々に顔を出したのに不愉快です。
    前の満月の日は大雨でした。
    「たまに皴が寄っているのが癪だね」
    「はじの皮がちょろげているのも汚らしいや」
    饅頭がなにをしたというのでしょう。
    聞いているのもいやになってあたりを見回しました。
    中央線が西へ西へと走っていきます。
    「饅頭以外に何か怖いものがあるかね」
    「そうだねえ、カマドウマはいやだね」
    カマドウマなんて久しぶりに聞きました。
    「カマドウマなんて久しぶりに聞くね」
    男と同じことを考えていた月は、少しだけオレンジがかります。
    「なんかさ、下駄箱の隅のところで三匹ぐらい寄り集まってこっちに尻を向けてじっとしてるの」
    月は、都庁ビルの方を見ているふりをしています。
    「あれをみていると、なんだか俺の悪口を言われているみたいで」
    「それはどうだろう」
    月は新宿中央公園の公衆便所の脇でカマドウマを散り散りに十七匹見つけました。
    長い触角が影を落として、何倍にも長く見えます。
    「でもやっぱり饅頭は怖いよね」
    「うん、まるいしな」
    「まるいし」
    男たちはそれから黙って歩きました。

    きっと、うとうとしていたのでしょう。
    ものすごい地響きに目を覚ますと、寝ている間にはるか東になった奥多摩のあたり、大きな饅頭がひとつ転がり出てくるところでした。
    暁を浴びた赤黒い巨塊はほぼ真っ直ぐに中央線沿線をたどって都心へ向かっています。
    饅頭が転がるたびに足元ではいくつもの爆発や炎上があって、無辜の東京都民が敢えなく命を落としていることでしょう。
    ですが、来てしまったものは仕方がありません。
    月は地平線に沈んでいく己が身を少し**ました。
    するとその時です。
    朝焼の新宿中央公園の地面が弾けたと思うと、大きな大きなカマドウマが三匹も飛び出したのです。
    三匹はそれぞれ新宿西口の高層ビル群をなぎ倒しながら集まると、触角を摺り合わせてひそひそと、饅頭の悪口をささやきあっているのでした。
    いったい、このあと どうなってしまうのでしょう。
    月は転がっていく饅頭を見送りながら「きっと夜中のあの男の人は恐怖で発狂しているに違いない」と思ってなんだか愉快でした。
    ようやく満足した表情で、だんだんと夜明けの光に消えていきました。

    吉田松竹梅と西郷猛盛が、ともに助け合って、美少女戦隊に最後の戦いを挑むのこの後、一年後のことである。
    鉄平の友人、四天王と呼ばれた彼らが、何故、こんな戦いをしなければならなかったのか。
    全ての謎は、やがて解かれようとしていた。

  9. 49 大学教授さん

    続きが読みたいので上げてみます。よろしくね♪

  10. 50 匿名さん

    ねぇ、続きは、どうしたの?

  11. 51 入居予定さん

    51歳

    「明けましておめでとうございま〜す!」
    初詣でにぎわう神社の一角。
    人混みから叫びながら飛び出したのは、宝模様がちりばめられた赤い振袖を着て破魔矢を持った少女。アップにした髪に白い羽飾りが揺れている。
    「ルージュ、シャドウ、ここよ、ここ」
    「きゃー、ホワイト。今年もヨロシク!」
    ルージュと呼ばれて振り返ったのは星と小花の舞うピンクの振袖をひらめかせ、綿菓子と焼きイカを両手に持った少女。
    そして背後から渋い深緑の地にあでやかなランの花が浮き上がる振袖でシャドーが登場した。
    襟元から覗く白い首筋が相変わらず妖艶だ。
    「総合美科学研究所美少女戦隊が勢ぞろいって訳ね」
    「今年も、コスメパワーで変態どもをやっつけるわよ!」
    久しぶりの晴れ着に、盛り上がるホワイトとルージュ。
    「ところで」シャドーが、袂からゆっくりと一枚のおみくじを取り出した。
    「今年も波乱万丈になりそうなのよね」
    切れ長の目が妖しく微笑んだ。

    「ここが、おみくじに見せかけた挑戦状の場所?」
    ピチョーン、ピチョーン。
    暗い洞窟の中はただ滴り落ちる水滴の音が響くのみ。
    「戦闘服に着替えてくればよかったかしら」帯を苦しげに持ちながらホワイトが呟く。
    「だって、着付け代高かったんだもの、簡単に脱ぐなんて嫌よ」
    ルージュが口を尖らせる。
    「それにしてもなんだか、息苦しい」
    シャドーがともすれば滑りそうになる足元を気にしながらあたりを見回した。
    懐中電灯を向けると、瓜のように膨れてぼよんぼよん垂れ下がる鍾乳石の先端から水滴が滴り落ちるのが照らし出される。
    「なんだか、すご〜く不愉快なのよ。まるで豊満な胸に囲まれているよう……」
    「これ見よがしって感じね」
    確かに、息が詰まるような圧迫感がある。
    ホワイトはふと手元に垂れさがる鍾乳石を掴んだ。
    むにゅっ。
    「こ、これは……」
    ぽったりと垂れ下がる肌色の鍾乳石の先端には、ほんのりピンクに染まった突起が。
    「これは、鍾乳石じゃないわっ」
    その瞬間、洞窟の中がいきなりまぶしい光に満たされた。

  12. 52 暇なんだもの♪

    52歳
    続きが読みたい。だれか続きを書いてくれ。

  13. 53 入居済みさん

    53歳
    続きはぁまだぁ〜?

  14. 54 匿名

    閉鎖されてんのかな?試しにエイっとw

  15. 55 マンション住民さん

    続ききぼんぬw

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