修繕費は充分かね?
夢の「タワマン」からまっ逆さま… 住民から“修繕費が足りない”の悲鳴が上がるワケ
5/19(土) 8:01
デイリー新潮
「タワマン」住民が悲鳴を上げた「修繕費が足りない!」(上)
夢の「タワマン」からまっ逆さま… 住民から“修繕費が足りない”の悲鳴が上がるワケ
武蔵小杉の高層マンション
近年、各地に林立するタワーマンション。時代の先端をいくオシャレな住まいの象徴とされているが、考えてみればたしかにそうだ。上に高ければ高いほど修繕工事のコストはかさむ。ところが、多くのタワマンで修繕費が足りず、スラム化の恐れすらあるという。
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摩天楼は見上げるものであり、せいぜいたまに登るものだったが、近年は住むものにもなった。たとえば、東京五輪の選手村が開設される中央区や江東区の湾岸エリアには、雨後の筍のようにタワーマンション(以下、タワマン)が林立し、人口も急増している。
湾岸エリアだけではない。すでに全国には1300棟超のタワマンが建っているといわれ、不動産経済研究所の調べでは、昨年3月時点で新たに285棟、10万6000戸余りが建設および計画されているという。
日本の人口は減りつつあり、すでに住宅の数は世帯数を大きく上回っているのに、なにゆえ「筍」は生えるがままか。そんな疑問はここでは措くとして、このゴールデンウィークもタワマンの見学会は各地で盛況だったが、東京は赤坂のタワマン住人が漏らすのは、こんなため息である。
「うちは500戸、築9年ほどですが、管理組合理事を務めたときに財務諸表を見たら、数年後に控える最初の大規模修繕の支出累計が、収入累計を数億円も上回っているじゃないですか。しかも、築30年で予定される2回目の修繕では、支出がさらに収入を上回ることが明らかなんです」
このマンションでは、各戸の床面積に応じて月4万~5万円の長期修繕引当金を徴収しているそうだが、
「現状の引当金では、長期修繕計画に耐えられないのは明らか。私は2回目の大規模修繕時には、もうここに住んでいないと思いますが、マンションの将来を考えると不安ですよね」
ディベロッパーの“カネのなる木”
この住人の不安が決して例外ではないことは追い追い示すが、その前にタワマンとはなんたるかを確認しておきたい。まずタワマンという語についてだが、
「法的な定義はなく、高さ60メートル以上、概ね20階建て以上のマンションをタワーマンションと考えることが多い。高さが60メートルを超えると、構造耐力上の安全性を確認するため、コンピューターによるシミュレーションで地震波などによる揺れを、より緻密に検証することが求められます」
と、さくら事務所のマンション管理コンサルタント、土屋輝之氏。だから、低層のマンションのほうが建てやすいのだが、
「不動産ビジネスの観点から考えると、背の低いマンションにするなんてありえません。土地当たりの収益を高めるには当然、高層のほうがいい」
そう語る土屋氏が記憶するかぎりでは、
「最も古いタワマンは、いまのさいたま市に1976年に竣工した、21階建て463戸の与野ハウス」
だというが、それが急増したのは90年代後半だった。住宅ジャーナリストの榊淳司氏によれば、
「97年の建築基準法改正で容積率、つまり敷地面積に対する延べ床面積の割合の上限が緩和され、建物を上に伸ばすことができるようになった。加えて日影規制も緩和され、まず中央区佃あたりに“タワマン村”が出現。埼玉県川口市も初期のころから多いです」
CIP一級建築士事務所の須藤桂一代表が継いで説明するには、
「2002年7月にも、建築基準法の改正でマンション等の容積率が緩和できる制度が新設され、狭い土地にますます高層マンションを作るようになりました」
一般にタワマンは「夢の住まい」と認識されているらしい。しかし、マンションが上へ上へと伸びていったのは「夢」のためではなく、平たく言えば、さる不動産会社社長が次のように説明する通りである。
「タワマンが乱立した理由は、ディベロッパーが儲かるからに尽きます。規制緩和のおかげで、狭い土地に多くの居住者を押し込めるようになったうえ、同じような間取りが30階、40階まで続けば、材料費も大量の仕入れで安くなる。とにかくコストパフォーマンスが高いのです」
ところが、ディベロッパーは“カネのなる木”の植えつけに夢中で、修繕のことまで考えていなかったようで……。
これから大きな混乱が
「日本の建築業界の技術力があれば、タワマンを建てるのは十分可能でした。しかし、大規模修繕については業界全体の経験値が低く、いくらかかるのか予測が立てられていません。初期のタワマンが一斉に1回目、2回目の大規模修繕を迎えますから、これから大きな混乱があると思います」
そう語るのは、建物診断設計事業協同組合の山口実理事長だ。さくら事務所創業者で会長の長嶋修氏も、
「増えはじめた2000年代前半、タワマンは解体できないのではないかと言われた。それでも建て続けたくらいなので、建てたあとの修繕費用など検討事項に入っていなかった」
と言うほどで、修繕問題はタワマンのアキレス腱になりそうなのだ。むろんタワマンにかぎらず、マンションに修繕は欠かせず、
「大規模修繕工事に必要な資金を計画的に積み立てるために、長期修繕計画が作成されています」
そう説明するのは、前出の土屋氏である。
「これは将来予想される修繕工事の内容や時期、費用の概算などを盛り込んだ計画表で、08年に国交省から作成のガイドラインも公表され、築12年から15年で1回目の修繕工事を行うのが一般的です。1回目は外壁や屋上防水など建物関連の修繕が中心ですが、築24年が目安の2回目、36年が目安の3回目は、加えて給水管や機械式駐車場、エレベーターなどの設備修繕も必要になる。修繕回数が増えるほど、工事にかかる費用も高額になります」
外壁修繕、給排水管がネックに
そのなかでタワマンに特徴的なのは外壁修繕で、前出の須藤代表が言う。
「上に高いので足場を組むにも費用がかかり、15階を超えると補強も必要で、またコストがかかる。20階を超えると足場が組めないのでゴンドラを使いますが、さらにハイコストです。10階の1号室から5号室に移動する際、足場なら職人はすぐ動けますが、ゴンドラだと、1号室を終えたらいったん下まで降りてゴンドラを5号室の下に移し、乗り直して上がる。なので労働時間が何倍もかかって人件費がかさみます。結果、タワマンの修繕費は高さ60メートル未満のマンションとくらべ、高ければ5割増しくらいになってしまいます」
一方、前出の山口氏は、
「タワマンの修繕で今後問題になるのは、給排水管でしょう。タワマンは無理な設計をしているので、給排水管に問題が出るのも当たり前。築10年を超えれば不具合が出てもおかしくなく、交換するとなると何億円もかかる。そのため後回しにしがちですが、漏水など生活に直接影響します」
だから修繕に向け、十分な備えが必要だが、
「分譲時に分譲会社や管理会社が作った長期修繕計画は、結構いい加減な場合が多く、漏れや間違いが見つかることも少なくない。私の経験では、修繕費用の見積もりが安すぎる場合が圧倒的に多く、結果的に修繕費用が不足する事態が多発しています」(土屋氏)
(下)へつづく
「週刊新潮」2018年5月17日号 掲載
新潮社