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『湾岸マンションはなぜ、完売続きなのか-防災力』
プレジデント 10月8日(月)10時30分配信
湾岸エリアのマンションが売れ行き好調だ。東日本大震災後初となる都心・湾岸エリアでの新築分譲マンションとして注目された「プラウドタワー東雲キャナルコート」は、11年12月に販売された第一期250戸が即日完売し、第二期も即日完売が続いている。震災後では一期あたり最大の供給数となる320戸を12年4月に販売した「ザ・パークハウス 晴海タワーズ クロノレジデンス」も平均倍率1.2倍、90%の登録申し込みと順調なスタートを切った。
大震災直後は物件供給が完全にストップし、「新規分譲はしばらく難しいのでは? 」とも危ぶまれた湾岸マンション市場だが、11年の連休明けごろから早くも客足が戻り始めている。今や震災前をもしのぐほどの盛況ぶりだが、その理由はどこにあるのか。
まずいえるのは、本質的に湾岸エリアが持つ優位性だろう。東雲の物件の最寄り駅である豊洲駅からは有楽町線で銀座一丁目駅まで5分、晴海の物件も最寄り駅の勝どき駅から大江戸線で汐留駅へ5分で行ける。都心への近さという点では、極めて恵まれた条件にある地域だ。都心に近いということは、震災時の帰宅困難度が低いということでもある。それでいて、価格設定は低く抑えられている。豊洲駅周辺では坪単価が300万円を超える物件も珍しくないが、駅徒歩11分の東雲の物件は240万円前後と2割以上安い。また晴海の物件も中央区の立地ながら、70平方メートル台の3LDKが坪単価250万円前後で買える。坪単価300万円超の物件が少なくない城西・城南エリアと比べると、その安さは明白だ。
いくら交通利便性が高く、価格が抑えられているとはいえ、震災に対する安全面に不安があるエリアで住宅の人気が高まることは考えにくい。だが、この点についても湾岸エリアは課題をクリアしつつある。というのも、先の大震災で液状化の被害を受けたのは湾岸でも限られた地域で、大半のエリアではほとんど被害がなかったからだ。首都直下地震ではより大きな被害も想定されるが、一般的には湾岸エリアの震災リスクへの懸念は薄らぎつつある。実際、国土交通省が四半期ごとに調査している地価動向では、液状化被害の大きかった海浜幕張や新浦安を除き、湾岸エリアの直近の地価は横ばいないし若干の上昇に転じている。
■阪神・淡路大震災でも倒壊は少なかった
震災後に分譲された湾岸マンションは、いずれも液状化をはじめとした防災対策を強化している点もプラスに評価されているようだ。例えば東雲の物件は敷地内で新たに液状化対策を追加したうえ、建物内に防災倉庫を9カ所設置し、非常用発電機を増強して非常用エレベーターの稼働時間を法規制の5倍に相当する約20時間とした。また晴海の物件は地震の揺れを低減するため免震構造を採用したほか、各フロアに3日分の水や食料、簡易トイレを備えた防災備蓄倉庫を設置するといった具合だ。
さらに湾岸エリアは、防災面でむしろ安全性が高いとする見方もある。「首都圏では大震災による液状化がクローズアップされましたが、被害のあった地域でもマンションの建物自体はほとんど無傷でした。地下の硬い支持層まで杭を打っているうえ、液状化が地震の揺れを吸収する効果もあります。阪神大震災でも液状化の被害が大きかった六甲アイランドでは、建物の倒壊はむしろ少なかったのです。加えて湾岸エリアは道路が広く整備されており、直下地震で懸念される火災に対しても『防災力』は高いといえるでしょう」(東京カンテイ市場調査部上席主任研究員・中山登志朗氏)。
ここでは東雲と晴海の物件にフォーカスしたが、今後も湾岸エリアで分譲される大規模マンションに関しては防災対策の強化を打ち出すものとみられる。価格設定さえ誤らなければ、引き続き高い人気が予測されるだろう。
住まい研究塾 大森広司(おおもり・ひろし)
1962年、東京都生まれ。立命館大学法学部卒。住宅系シンクタンク・オイコス代表。All About「マンション入門」ガイド。著書に『新築マンション買うなら今だ! 』(すばる舎)など。