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首都圏で大地震は発生するのか? 分かったこと・分からなかったこと
Business Media 誠 3月9日(金)17時7分配信
明治以降の5つの大地震(黒丸)と、最近のマグニチュード2以上の地震を示している(出典:文科省のプロジェクトチーム)
「今後30年以内にマグニチュード7クラスの地震が、首都圏で発生する確率は約70%」――。この数字を聞いて、不安を覚えた人も多いはずだ。その後も「4年以内に70%」「5年以内に28%」といった数字が飛び交い、情報に右往左往させられた。
近い将来、発生する確率が高いと言われている「東京湾北部地震」について、どのくらいのことが分かっているのか。文部科学省の委託を受けた専門家が、地震を引き起こすメカニズムを明らかにした。研究メンバーのひとり、東京大学地震研究所の平田直教授が首都直下型地震の姿を語った。
●100年間にM7クラスの地震が5回
平田:首都圏(南関東)ではこれまで、繰り返し大きな地震が発生してきました。例えば1923年に起きた「大正関東大震災」。この地震によって、10万人以上が亡くなられた。
大正関東大震災はプレートの境界で発生し、地震の規模はマグニチュード(M)8クラス。この地震に類似したものといえば、1703年に起きた「元禄関東地震」がある。これは江戸時代に起きた地震ですが、大きな災害をもたらしました。特に「津波が発生した」と伝えられています。また同じく江戸時代に「安政江戸地震」(1855年)があり、そのときの死者は7000人以上と推定されています。
グラフ「関東地方で起きた大地震」、ほか:(http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1203/09/news061.html)
当時の人口を考えれば、阪神・淡路大震災を上回る人が亡くなったということになります。なので、これらの地震は「大災害」だと考えられます。この中で比較的被害が小さかった地震は、1894年に発生した「東京地震」。こうした大災害がありましたが、その後、首都圏では幸いにも大きな震災を経験していません。しかしM7クラスの地震はたくさん起きてきました。
M8とM7。Mという単位では「1」しか違いませんが、実は地震のエネルギーとしては約30分の1の違いがあります。M7は自然現象としては大変小さな地震。“大変小さい”といってもM7クラスの地震が都市で起きれば、1995年の阪神・淡路大震災のように非常に大きな災害になってしまいます。
首都圏で起きたM8~9クラスの地震をみると大正関東地震(1923年)、その前には元禄関東地震(1703年)があって、この2つの地震の間隔は200年ほど。現在は大正関東地震からまだ100年ほどしか経っていないので「しばらくはこないかな」と思っているのですが、過去の地震を見れば200年の間にM7クラスの地震はたくさん起きてきました。これが首都圏の特徴でもあります。
M7クラスの地震というのは北は茨城県のつくば市くらいから南は房総半島の南端。東は千葉県の銚子、西は神奈川県まで含んでいます。このくらいの広い範囲の中に、過去100年間に5回、M7の地震が起きています。これを「発生の確率」という言葉にすれば「30年以内に70%」ということになります。過去100年間にM7の地震が5回起きていれば、今後100年間でもM7クラスの地震は5回くらいは起きると考えられます。
過去100年間にM7クラスの地震が5回――。これは世界的にみても非常に数が多く、また偶然に多かったわけではありません。地震というのは基本的に、プレートの周辺部で起きるもの。日本列島の近くでは「太平洋プレート」という地球上で最も大きなプレートが東の方にあって、それが1年間に10センチほどの速さで西の方に押し寄せています。
また南の方には「フィリピン海プレート」という海洋プレートがあります。この2つの海洋プレートが日本列島の下にもぐりこんでいる。これが原因となって、日本では地震の回数が多いのです。
首都圏の地表の下にはこの2つのプレートが存在していて、世界で最も複雑な地域の1つです。こうした環境のため、首都圏では過去100年間にM7クラスの地震が5回も起きました。
私たちが研究しなければいけないことは、具体的にこのプレートが首都圏にどのような影響を与えているのか。また、このプレートがどこにあるのか。こうしたことを理解していくことが重要なのです。
●地震観測点を整備
これまでの研究で分かったことをお話しします。首都圏というのはプレートの集合地点であるために、地震の数が多い。また「M8クラスの地震はしばらくは起きない」と思われていました。しかし今では、このことを疑わなければいけません。普通に考えれば、M8クラスの地震は100年ほどは起きないでしょう。しかしM7クラスの地震は、非常に高い確率で首都圏のどこかで起きる。このことが、私たちの研究で分かりました。
「M7クラスの大地震は、30年間に70%の確率で起きる」と言われていますが、それがいつ起きるのか。その地震が起きたとき、建物はどうなるのか。そこに住んでいる人々はどうなるのか。といったことを考えなければいけません。
そこで私たちは5年間かけて、首都圏に約300カ所の地震観測点を整備しました。日本列島は世界で最も地震計がたくさんある国です。地震観測点は約20キロメートルの間隔で存在し、全国に約1000カ所設置されています。
そこでは24時間365日データを取り続けていて、地震がどこで起きているのかを調べています。しかし地震観測点は約20キロメートル間隔にあったので、首都圏では数点しか整備されていませんでした。そこで私たちは約5キロメートル間隔で、地震計を設置していきました。
地震観測は、都市部ではあまり行われてきませんでした。なぜなら都市ではクルマがたくさん走っていたり、人間の活動があるので、観測をしてもノイズだらけでうまくできませんでした。そこで私たちは都内の静かな場所として、小学校や中学校の校庭などに地震観測点を設置しました。都内でも深さ3キロの井戸を掘って、そこで観測をすれば山の中で観測するのと同じように記録することができます。そこで都市では深さ20メートルほどの井戸を掘って、その下に地震計を設置しました。そこからインターネットを使って、地震研究所にデータを送信する仕組みを作りました。
こうした観測をすることで、何が分かったのか。地震の記録を解析することによって、地下の断面図を作りました。病院で検査をするときにCTやMRIを使って身体の断面図を撮ってもらうことがありますが、同じような形で地下の断面図を作ろうとしました。そのためにはなるべく多くの地震計があったほうが、得られる画像がくっきりするのです。
その画像を見て、プレートがどこにどういう形で沈みこんでいるのかが分かるようになりました。例えば、フィリピン海プレートはこれまで考えられてきた深さよりも、実は10キロメートルも浅いことが分かりました(想定される震源の深さが従来の30キロから20キロへと約10キロ浅くなることが判明)。これは年数とともに徐々に浅くなったというわけではありません。「深いと思っていたものが、実際は浅かった」ということです。
このプレートの位置がなぜ重要なのかというと、同じMの地震があった場合、揺れが違ってくるから。今回のようにフィリピン海プレートの深さが浅いということが分かったことで、同じMの地震でも首都圏では揺れが大きくなることが予想されます。
「今後30年以内にM7クラスの地震が、首都圏で発生する確率は約70%」と言われています。この計算は1894年に起きた「東京地震」以後、首都圏でM7クラスの地震が5つ※も発生したことに基づいています。しかし、この5つの地震がどこで発生したのかなど、よく分かっていませんでした。5つの地震はフィリピン海プレートの上なのか中なのか、それともフィリピン海プレートと太平洋プレートの間なのか。または太平洋プレートの中なのか。
※5つの地震:1894年東京地震、1895年と1921年の茨城県南部、1922年浦賀水道付近、1987年千葉県東方沖
古いデータを解析した結果、次のことが分かりました。1894年の東京地震はフィリピン海プレート内部または太平洋プレート上面で発生した。1895年の茨城県南部地震は太平洋プレート内部で発生した。1921年の茨城県南部、1922年の浦賀水道付近の地震はフィリピン海プレートの内部で起きたことが分かりました。この5つの地震以外、つまり安政江戸地震については記録が残っていないので、まだ未解決です。
●次の地震
首都圏の直下地震はどこで起きるのか? 次はどこで発生するのか?
申し訳ございませんが、分かりません。過去に起きた地震がどこで起きたのか、については研究しました。さきほども申し上げましたが、過去に起きた4つのM7クラスの地震はプレートの内部で起きて、1つは内部か境界で起きたことが分かりました。
もし首都圏で大地震が起きたら、地表はどのような揺れになれるのか?
地震が起きるか起きないかは分かりません。ただ今回の調査でフィリピン海プレートの上面が、従来の想定より約10キロメートル浅いことが分かりました。もし東京湾北部で地震が起きれば、これまでの想定よりも東京では揺れが大きくなるでしょう。
地震はいつ発生するのか?
残念ながら、分かりません。しかし過去100年間にM7クラスの地震が5回も起きたことを考えれば、30年以内に首都圏のどこかで70%の確率で発生するでしょう。この確率は極めて高いものだと言えます。
[スレ作成日時]2012-03-09 22:09:27